「厚木市庁舎の免震改修見学報告」 建築士事務所協会会報かながわ2005.2.1掲載
地震動の大きさ 新潟県中越地震は平成16年10月23日午後5時56分に発生した。この時、震央に近い小千谷市に設置された地震計では、地表面加速度1500ガル、地表面の水平変位速度は136cm/secを示し、震度7に相当する揺れを記録している。
免震建物の状況 この地震計設置点から1kmの位置に、免震構法による小千谷総合病院老人保健施設「水仙の家」があった。建物の規模は地下1階地上5階延べ面積4448uであるが、地震動によって壊れたものは何一つなく、3階の入居者が棚に安置していた仏像は転倒することさえなかった。
他の建物の状況 この施設内には他に2棟の病院施設があった。最も古い棟(3階建1968年)は、一階の柱がせん断破壊して支持能力を失う「大破」となり、比較的に新しい他の一棟(7階建)では内部の設備、什器備品等は激しい振動により大きな被害を受けた。そのためこの2棟の入院患者は一時期、免震棟のホールにベッドを並べる避難生活を余儀なくされた。
厚木市庁舎の免震改修
庁舎の免震改修工事はこの1月末に完成を迎える。昨年9月に私たちが見学した時は、庁舎地下室の更にその床下が免震層としてきれいな回廊のように整備され、そこに40台の免震装置が取付けられていた。鉛棒と積層ゴムを組み合わせた支承28台、滑り支承12台が一体となって重量約18、000トンの庁舎を支えているとの事であった。小千谷市の「水仙の家」では、免震装置が約15cmの水平変位跡を残して何事もなかったように巨大地震動のエネルギーを吸収している。 完成後の庁舎でも新潟クラスの地震動には同じ程度の水平変位量を約3〜4秒の間に往復しながら静かに止まり、庁舎内にいた市民や職員が「おや!」と思った時は既に本震の揺れは治まっていると思う。地震で壊れない庁舎は、コンクリートの劣化を防ぐメンテナンスを行いながら、永く次世代にまで使い続けられるに違いない。
免震改修による環境負荷の軽減 もし、市庁舎を取り壊して建替えるとすれば、発生するコンクリート廃材は11、000立方メートルを上回り、その解体処分に伴う二酸化炭素の排出量は約211トン、更に同じ規模の建物を再建する為に必要な量のコンクリートを製造するとすれば、これに伴う二酸化炭素排出量は約891トンが想定される。庁舎の免震改修による環境負荷の軽減は、コンクリート解体・製造の工程だけでも200世帯が1年間、二酸化炭素排出量をゼロとするに等しいものと思われる。オゾンホールは日一日と拡大し、地球温暖化による極く僅かな地球環境の変動が、想像を越える災害に直結する兆候が現れ始めている現在、既存建物を耐震補強して使いやすいように改修しながら永く使い継ぐことは、例え僅かではあっても温暖化ガス排出削減の目標に向かって肉薄していく「災害への文化力」の一つに加えられるものと思われる。
仏像の教えも 震度7の巨大地震動にも転倒だにしなかった棚の上の仏像も教えていると思う。「免震構法は人々の命と財産を守り、かけがえのない地球環境を保全するうえでも有効である」と。
資料:「平成16年度新潟県中越地震被害調査報告会梗概集」日本地震工学会 「コンクリートのリサイクル」社団法人日本コンクリート工学協会北海道支部 「統計資料 2002年版」
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